右翼商法と左翼商法

はじめに
中小企業にとって、自社の商品やサービスをどう表現し、誰に届けるかは生命線です。しかし、多くの企業は「いいものを作っているのに伝わらない」「顧客に刺さらない」と悩んでいます。これに対し私はマーケティングの新しい枠組みとして、「右翼商法」と「左翼商法」という2つの視点を提唱しています。
この分類は、政治的な左右とはまったく関係がありません。技術観や価値観の置きどころの違いに基づく分類であり、ペルソナ設計やブランディングに極めて有効です。当然ながらToCビジネス、最終消費財ビジネスに向く考え方です。
「右翼商法」とは何か?
右翼商法とは、加工技術、伝統技術、暗黙知、そして技術者の手仕事に価値を置く顧客をペルソナにした商法です。素材そのものよりも、それを「どう加工するか」「どれだけ工夫を凝らせるか」「それのためにどれだけの技術・修行・積み上げが必要か」に重きを置きます。頑固親父のこだわりラーメンとかが好きな人ですね。
右翼商法のキーワード:
- 職人技
- 伝統文化
- 熟練
- 暗黙知
- 地元密着
右翼商法の商品例:
- 熟練の職人が作る刃物や漆器
- 独自のレシピで仕上げたラーメン
- 高度に調整された調味料や加工食品
顧客像:
- 技術の確かさに信頼を寄せる層
- 昔ながらの価値観を大切にする層
- 地元や文化を愛する層
「左翼商法」とは何か?
左翼商法とは、素材の持つ力や、加工されないことの良さ、そして生産背景や倫理性に価値を置く顧客をペルソナとした商法です。職人の技よりも「素材がどこから来て、どう育ち、どれだけナチュラルか」を重視します。有機栽培のレタスを生で食べているイメージの人たちですね。
左翼商法のキーワード:
- 素材主義
- サステナビリティ
- 自然・無添加
- 透明性
- 生産者との共感
左翼商法の商品例:
- 無農薬・自然栽培の野菜
- フェアトレードのコーヒーやチョコレート
- 素材感を活かした自然派コスメ
顧客像:
- 都市部在住の価値観重視層
- 環境や社会問題に関心がある層
- 情報感度が高く、ストーリーに共感する層
大企業が入りにくい「右翼/左翼」領域の理由
この「右翼/左翼商法」が中小企業向きである大きな理由は、大企業が入り込みにくい性質を持つからです。
- 技術継承や暗黙知に根付いた職人文化は、数十年にわたる熟練の蓄積が必要。標準化・マニュアル化を求められる大企業には難しい。
- ローカルや小規模協働に基づく素材調達は、コスト効率や規模の経済を重視する大企業モデルにそぐわない。
- **高度なコンセプト訴求(技術・自然・生産背景)**は、画一的なブランド管理のもとでは感情訴求が希薄になりやすい。
- SNSで燃えやすい(重要)
→ だからこそ、中小企業にこそ活かせるマーケティング軸なのです。
中小企業における「右翼商法」「左翼商法」と言える事例
右翼商法的アプローチに近いビジネスとしては、以下のようなものがありました。リンクなどは貼りませんが、参考になればと思います。
- 石川県・輪島の漆器職人:漆塗り独自技法を継承し、海外高級ブランドとも対等に渡り合う。
- 新潟の伝統醤油蔵:数百年の歴史を背景に、対面販売・限定品づくりでファンを獲得。
また、左翼商法的アプローチに近いビジネスとしては以下のようなものが挙げられます。こちらもリンクは貼りませんが、顧客へのアプローチの仕方として参考になります。
- 長野の自然栽培ワイナリー:化学肥料不使用・土壌由来の味わい訴求によるクラウドファンディング成功例。
- 神奈川のフェアトレード雑貨店:発展途上国の作り手と直接提携し、「買うことが社会貢献」になるストーリー販売。
対立ではなく“軸”として使う
この「右翼/左翼」という概念は、対立を煽るためのものではありません。むしろ、「自社の世界観を明確にし、マーケティングの軸を作る」ためのツールです。
たとえば、同じジャンルの商品でも、どの視点で語るかで訴求対象が大きく変わります。
商品ジャンル | 右翼商法的アプローチ | 左翼商法的アプローチ |
---|---|---|
お茶 | 合組や焙煎で味を極めたブレンド茶 | 単一農園・自然栽培のシングルオリジン |
味噌 | 熟練の職人による長期熟成味噌 | 無添加・自然発酵・原材料の見える化 |
カフェ | 職人焙煎と抽出技術を売りにする老舗喫茶 | オーガニック・エシカル・ストーリー重視のカフェ |
中小企業への応用:まず“思想”を決めよ
中小企業は大企業と違い、全方位マーケティングはできません。だからこそ、「自社はどちらの思想に立つか」を明確にすることが重要です。
- 技術と伝統で勝負するなら右翼商法
- 素材と共感で勝負するなら左翼商法
そして、ロゴや店構え、パンフレット、SNSの発信も、その思想に沿って統一することで、ブランドは一貫性を持ち、顧客に深く刺さります。
まとめ
「右翼商法」と「左翼商法」は、単なる言葉遊びではありません。自社の価値を見直し、顧客に届けるための“思想のフレーム”です。
あなたの会社は、どちらの思想に立っていますか?
自社の軸を定めれば、ブレないマーケティングが始まります。