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AI小説「ザイム真理ヲ教ル」第7章

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刑務官

定年間近の刑務官は、長年の勤務で培った規律と誇りを胸に、静かに最後の職務に向き合っていた。彼のキャリアは三十年以上に及び、その間、数多くの受刑者と対峙し、時に厳しく、時に寄り添うことで、多くの者を社会へと送り返してきた。更生とは、単なる矯正ではない。人間が自分の過ちと向き合い、新たな一歩を踏み出す手助けをすること――その信念こそが、彼の誇りであった。

その彼が、最後の担当として任された受刑者、それがザイムだった。

初めてザイムを見たとき、刑務官は直感的に「容易な相手ではない」と感じた。ザイムの眼差しには傲慢さと虚無が同居し、自らの信念に酔いしれているようでもあった。彼の服役中の態度は協調性に欠け、他人と距離を取り、常に自分の正当性を主張する言動が目立った。刑務官はその様子から、ザイムが極度の自己愛と被害者意識を抱えていること、そして「真理」という言葉を盾に責任から逃げていることを見抜いた。

「この男を変えるには、自分で自分の行動を選び、その結果を引き受ける覚悟を持たせなければならない。」

そう確信した刑務官は、面談を通じてザイムと向き合い続けた。最初の対話は噛み合わなかった。ザイムは「社会が悪い」「自分は被害者だ」と繰り返し、現実から目を背けていた。だが刑務官は決して感情を荒げることなく、静かに、誠実に言葉を重ねていった。

「お前が選んだ行動には、必ず結果がある。そして、その結果から逃げないこと。それが本当の自由だ。」

日を重ねるごとに、ザイムの態度にわずかな変化が現れた。頑なだった姿勢が揺らぎ始め、時に言葉を返せなくなることもあった。そして、ある日、刑務官は核心の言葉を彼に投げかけた。

「お前が来た道は、お前自身が選んだ道。そして、お前が行く道も、お前自身が選ぶ道だ。結果を受け入れ、自分に責任を持つのが人生だ。」

その言葉は、ザイムの心に深く突き刺さった。長く続いた対話の中で、初めて自分の行動と向き合う機会となり、ザイムは沈黙の中で、自らの過去を反芻した。そして静かに、更生を誓った。「変わる。今度こそ、自分の責任で生きる」。これがザイムの教わった最後の真理だった。

しかし、刑務官は更生したザイムの出所を見送ることが出来なかった。ザイムが出所するまであと少しというところで定年退職の日が来たからだ。退職日の面談室で刑務官はザイムの前に立ち、微笑を浮かべた。

「これからは、自分で選んで、自分で歩きなさい。それが、あなたの人生です。」

ザイムは深く頷き、胸に刻んだ。「自分の道は、自分が選ぶ。責任を持って生きる」

ほどなくザイムの出所日が来た。心を入れ替え、人生をやり直す決意とともに。胸には、あの刑務官の言葉が、変わらず響いていた。

タイミー

釈放の日、ザイムは重い鉄扉が軋む音を背に、刑務所を出た。曇り空の下、春とは思えぬ冷たい風が頬を撫でる。迎える者はいなかった。手にあるのはビニール袋に入ったわずかな衣類と数枚の古びた紙幣だけだった。

行くあてのないザイムは、市内の更生保護施設へと向かった。彼の住んでいたアパートは解約済みで、保証人もいなかった。かつての仲間たちの連絡先ももはや分からなくなっていた。だが彼の心には、刑務官から聞いた言葉が強く残っていた。

「お前が来た道は、お前自身が選んだ道。そして、お前が行く道も、お前自身が選ぶ道だ。結果を受け入れ、自分に責任を持つのが人生だ。」

その言葉を胸に、ザイムは再起に向けて歩み始めた。就職活動を始めたものの、前科が影を落とし、断られることが続いた。かつてなら世を呪い、陰謀のせいにしただろう。だが今回は違った。全ては自分の選択の結果だと、冷静に受け止めていた。

ある日、施設から古びたスマートフォンが支給された。元受刑者の立ち直りを支援するためとのことで今や型落ちの端末だったが、奇しくもザイムが逮捕前に使用していたものと同型だった。指先を震わせながらログインを試みると、Xのアカウントは生きていた。その瞬間、胸が熱くなった。

ザイムは支給されたスマートフォンにタイミーをダウンロードし、日雇いアルバイトを始めた。飲食店の繁忙期や配送業務など、様々な現場で汗を流し、わずかずつだが貯金をしていった。いつかこの施設を出て、真っ当な人生を送る——そんな希望を胸に、愚直に働き続けた。

日本橋

ザイムは次第にXで「更生」をテーマにした投稿を始めた。

《過去は変えられない。でも、未来は選べる。》

《反省は言葉ではなく、行動で示す。》

フォロワーはかつての数には及ばなかったが、共感や応援の声が少しずつ届くようになった。ザイムは再び、社会とのつながりを感じ始めていた。

しかし、就職活動は相変わらず上手くいかなかった。人手不足といえども前科のある人間を採用しようという企業はなかなかない。時々、不安が襲ってきた。このままずっと更生保護施設にいることになるのか、自分はいつまで働けるだろうか、自分の考えは正しいのだろうか。不安で泣き出したい夜を過ごした。少しずつ増えていく貯金の額を見ながら、自分は正しい、刑務官に教わった真理は正しい、少しずつ良い方向に向かっていると確認しながら眠りについた。

ある晩、飲食店での仕事を終えたザイムが帰り道にXを開くと、見知らぬアカウントからDMが届いていた。名前は「上杉謙信」、アイコンには「毘」の文字が掲げられていた。

『あなたの更生への姿勢、立派だ。日本橋で一杯どうか。場所は室町Show&Fun』

半信半疑でザイムは指定された高級クラブを訪れた。華やかな照明に彩られた内装、豪奢なソファ、洗練されたホステスたち。その中で、ひときわ目を引くスーツの男がいた。鋭い眼光を放ち、ただ者ではない雰囲気を纏っている。

「やあ、久しぶりだな、ザイム」

ザイムは言葉を失った。男の名は——オメガ。

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