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AI小説『ザイム真理ヲ教ル』第1章

ザイム登場

ザイムは本名ではない。本名は誰も知らないし、彼自身も気にしていなかった。貯金も資産もなく、ただSNSで政治を語ることだけが生きがいの男だったので、「財産が無い」から「ザイム」と呼ばれるようになった。 ザイムは難しいことはよくわからなかったが、Xで見たものを信じるうちに、「財務省がすべての元凶」だと確信するようになった。増税、物価高、低賃金、すべて財務官僚の陰謀だと。

以前の彼はそうではなかった。アベ政治が悪いと信じていた時期もあったし、小池百合子とナニカが日本を悪くしていると思い込んでいた時期もあった。しかし、そんなことはもう覚えていなかった。今や財務省こそが諸悪の根源であり、それ以外のことはすべて些末な問題に過ぎなかった。

労働

ザイムの仕事は小さな物流倉庫での仕分け作業だった。時給は最低賃金ぎりぎりで、彼が長時間働いても手に入る金額はいつも微々たるものだった。しかし、それは決して自分の能力が足りないからではなく、ましてや職場の人間関係に問題があるからでもないと彼は信じていた。全ては財務省が意図的に作り出した格差社会のせいだった。

職場ではザイムは常に浮いた存在だった。同僚たちの話題についていけず、休憩時間も一人でスマホを眺めて過ごした。皆が雑談や軽い冗談を言い合う中で、ザイムは突然「この国が貧しいのは、財務省が日本経済を破壊したせいだ」と真顔で呟いたりするものだから、周囲からは敬遠されていた。ザイムはそれを、自分が真実を語っているために皆が耳を塞ぐのだと思い込んでいた。

倉庫の上司は何度もザイムを呼び出して注意した。作業の遅さ、周囲とのコミュニケーション不足、ミスの多い仕分け作業について、改善を求められることは日常茶飯事だったが、ザイムは聞き流すだけだった。「こうやって低賃金で使い捨てるのが財務省の思惑なんですよ」と、真剣な表情で反論するだけで、具体的に何かを改善しようとは決してしなかった。 当然、職場での評価は低かった。次第に勤務時間も減らされていったが、ザイムは自分の責任だとは考えなかった。SNSに向かって「財務省が賃金を下げ、労働者を追い詰めている」と怒りの書き込みを続けることで、自分を慰めていた。

彼にとって、陰謀論は自己肯定のために必要なものだった。仕事で評価されないのは陰謀のせい、給料が低いのも陰謀のせい、他人に理解されないのも陰謀のせい――すべて自分のせいではないと信じられる限り、ザイムの心は奇妙な安心感に満たされていた。

忍者

「ザイム、今度のデモ、来るよね?」

DMを送ってきたのは「積極財政ニンジャ」と名乗るアカウントだった。アイコンは忍者の胸に「経」と書かれているものだ。彼のXのタイムラインには、「国債発行せよ!」「増税阻止!」「財務官僚は国賊!」といった言葉が並んでいた。

「行きますとも!」

ザイムは勢いよく返信した。なぜなら、彼の生活は日々厳しくなり、米の値段は昨年の二倍に跳ね上がり、スーパーの卵すら贅沢品になりつつあったからだ。好きな居酒屋のホッピーセットも値上げされ、ついに足が遠のいた。これも全部、財務省のせいに違いなかった。

デモ当日、ザイムは手作りのプラカードを手に霞が関へ向かった。「財務省解体!」と力強く書かれたそれを掲げ、人波に紛れ込んだ。

「国民を苦しめるな!」「PB黒字化なんて嘘だ!」

群衆の叫びが霞が関を震わせる。ザイムの胸が高鳴った。周囲を見渡すと、様々な人々が同じ怒りを抱えて集まっているのがわかる。その連帯感が体の奥から熱を生み出し、拳を握る手に力がこもった。

「財務省、出てこい!」

ザイムは声を張り上げ、プラカードを空高く掲げた。その叫びは周囲の声に飲み込まれ、さらに大きな怒号となって官庁街に響き渡った。まるで自分が世界を動かしているかのような錯覚に襲われる。

——俺たちの力で、この国を変えられる。

心が解放され、全能感に包まれた。これまで感じていた鬱屈した思いが霧散し、これが「覚醒」だとザイムは強く感じたのだった。

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