AI小説『ザイム真理ヲ教ル』第2章

ストロング
デモの後、ザイムは興奮冷めやらぬまま、コンビニでストロングチューハイを買い、アパートに戻った。Xを開くと、仲間たちの投稿が次々と流れてくる。
「財務省の犬どもが隠れてやがる!」 「ついに勝利の時が来たぞ!」 「国債発行で景気回復!」
その中には、財務省職員を追い回す動画やインフルエンサーが興奮気味に実況する動画、街中にゴミを投げつける動画など、見るに堪えないものも多かった。だが、ザイムにとっては、その全てが誇らしく、革命的な行動に映った。
(みんな、よくやってくれた……)
ザイムはストロングチューハイを飲み干しながら、一つ一つの投稿に丁寧に「いいね」を押していった。部屋の隅には、乱雑に転がったままのプラカードがあった。それを見ると、胸の奥で再び高揚感が湧いてきた。
(次はもっと大きなことができるかもしれない……)
翌朝、ザイムはいつものように倉庫内作業に向かった。薄暗く埃っぽい倉庫で、相変わらず仕事ぶりは悪かった。指示されたことを忘れ、品物を間違えて棚に置き、上司に叱られる。だが、彼の心の中には、何の反省も後悔もなかった。
(俺がうまくいかないのは、社会のせいだ……政府が悪いんだ……財務省が悪いんだ……)
不満と怨念ばかりが募り、ますます彼の表情は険しくなっていった。
やがて、同僚のほとんどが入れ替わった。賃上げムードに乗り、多くの者がより良い待遇を求めて次々と転職していったのだ。気がつけば、ザイムと上司以外の人間は全員が新しい顔ぶれになっていた。
その次のデモの日は小雨だった。参加者たちの熱気は雨雲を追い払うほどで、色とりどりの横断幕やプラカードが東京の霞が関を鮮やかに彩っていた。ザイムは財務省解体デモの群衆に紛れ込み、再び高揚感に包まれていた。
「財務省を解体しろ!」「積極財政で日本を救え!」
力強いスローガンを唱える集団の中に、いつもの積極財政ニンジャのほか、いつでも新選組と名乗る男や消費税廃止委員会というアカウントを運用する人物もいた。熱心にビラを配る女弁護士もいた。彼らは賑やかで好意的で、ザイムを温かく迎え入れた。デモが一段落した後、彼らは居酒屋に集まり、それぞれの職場でも財務省解体運動の仲間を募ろうと意気投合した。
「ザイムさんの会社でも、ぜひ仲間を募ってください!」
自分の頭で考える
笑顔でそう促され、ザイムは頷いた。自分も何か行動を起こすべきだと思った。
だが、その話をする前に彼は解雇された。
月曜日、ザイムが出社すると、いつもと違う空気が彼を待ち構えていた。周囲は視線を逸らし、囁き声は彼の耳に届かないよう注意深く交わされた。上司に呼び出されたザイムは、仕事の出来の悪さ、改善のない点、これまで行ってきた指導に従わず、能力不足であることなどを事細かに言われ、解雇を通知された。
「どうしてこうなったのか、お前は分かるか。自分の頭で考えてみろ」
冷淡なその言葉が、ザイムを激しく動揺させた。もはや財務省解体運動の仲間を集めるどころではなかった。
会社を出たザイムは、行き場のない苛立ちを抱えたまま、ふらふらと街を彷徨った。どこをどう歩いたのか分からない。気がつけば街灯が灯り、夜の帳が降りていた。足は痛み、体は疲れ果てていた。
自宅のベッドに横たわり、ぼんやりと天井を見つめながら考えた。長い長い時間、自分の頭で考えた。なぜ自分だけがこんな惨めな目に遭うのか。考えれば考えるほど、怒りは社会全体に広がり、その中心にある存在へと収斂していった。
「財務省のせいだ……全部、財務省が悪いんだ」
財務省が緊縮財政を強行するからこそ、自分はこんな境遇に陥ったのだ。ザイムはその確信を胸に抱くと、再び闘争の火が宿り、新たな行動への決意を固め始めていた。お金のことは心配だったが、翌日、なぜかは分からないが給料が2ヶ月分振り込まれていたので当分は暮らせそうだった。誤振り込みではないかとは思ったが、黙っていることにした。自分を解雇した企業から多少不当にせしめても問題はない、ザイムは今後に不安を抱えながらもそう思った。
オメガ
ザイムは手作りのプラカードを握りしめて、霞が関の財務省前に立っていた。プラカードには「財務省職員ども、お前はクビだ」と大きく書かれている。彼自身が失業中だということもあり、このデモで新たな出会いを見つけ、就職先も見つからないかなという気持ちも少しあった。
「財務省を許すな!」「日本経済を壊した張本人だ!」
周囲の参加者たちの叫び声が霞が関に響き渡る中、一人の男がザイムに近づいてきた。
「なかなか刺激的なプラカードだな」
男は薄い笑みを浮かべながら言った。
「名前は?」
「ザイムです」
「俺はオメガだ。財務省なんか序の口だよ。本当の黒幕は国際金融資本だ。さらにその裏にいるのが、グローバルエリートたちだ。奴らは通貨発行権を握り、意図的に日本を貧しくしているんだ」
オメガの言葉は、ザイムの胸に強く響いた。彼はXやTikTok、YouTubeでもそれぞれ10万人規模のフォロワーを抱えるインフルエンサーとして知られている人物だった。
「世界銀行、IMF、FRB……それらはすべて連携して、日本を植民地化し続けている。お前も真理を知るべきだ」