AI小説『ザイム真理ヲ教ル』第3章

真理
オメガはバッグから冊子を取り出した。
「これを読めば、本当の経済の真理が分かる、俺たちは自由になれる。君は目覚め始めた選ばれし人間だ」
冊子は数万円という高額だったが、ザイムは躊躇せず購入した。その夜、自宅でページをめくるたびに、彼の心は激しく揺さぶられた。点と点が繋がり、すべての不幸や混乱が計画的に起こされていることが鮮明に見えてきた。衝動に駆られ、彼はXに長文を投稿した。
「日本が苦しんでいるのは、すべて奴らの計画だ。我々の富や自由を奪う陰謀に立ち向かえ。目覚めよ、日本人!」
投稿ボタンを押した瞬間、彼の心は高揚感で満ちていた。
選ばれし人間
ザイムは毎日のように薄暗い自室でパソコン画面を見つめていた。画面にはオメガから届いた新たな教材が次々と表示されている。教材の内容はザイムには難解で半分も理解できなかったが、彼の不安や怒りを巧みに刺激する内容で、彼が社会から孤立している理由を「真理を知ったからだ」と錯覚させていた。
「これを知った者は消されるかもしれない。奴等は真実が知られることを恐れているのだ」
ザイムは教材のフレーズをそのままSNSに投稿した。彼らしい投稿だったのか、オメガの巧妙なマーケティング力によるものか、はたまた偶然か、投稿は意外にも多くの反響を呼び、フォロワー数が徐々に伸び始めていった。ザイム自身は相変わらず教材の内容は理解していなかったが、フォロワー数の伸びにより自分が正しい道を進んでいると確信を深め、教材のフレーズを抜き出しては発信を続けた。
フォロワーが増えるたびにザイムは自分が特別な存在であると感じ、さらなる教材の購入へと駆り立てられた。オメガからの「君は目覚め始めた選ばれし人間だ」という言葉を信じ切り、自己肯定感が高まっていった。
クレジットカードのローン残高は毎月確実に増えていくが、それでもザイムは「真理への投資には必要な犠牲だ」と自分に言い聞かせていた。
時折、フォロワーでもないDSの手先らしき人物から「大丈夫か?」といった心配のメッセージが届くこともあったが、ザイムはオメガのフレーズを使って切り捨てるだけだった。
「これはDSの罠だ。俺を真理から遠ざけようとしているのだ」
ザイムはまた新たな教材の購入ボタンをクリックしながら、ぼんやりとつぶやいた。
「これで、また真理に近づける……」
彼の目は現実を拒絶するかのように虚ろに揺れていた。
承認
SNSで陰謀論を織り交ぜた発信を続けるザイムのフォロワーは急激に増えつつあったが、その裏では経済的な逼迫が深刻になっていた。家賃を滞納し、食事も満足に取れないまま、ザイムは日々の発信に追われていた。財務省解体デモも打ち上げには徐々に足が遠のいていた。時々「あんしん払い」に設定したローンの枠が空いたので、その枠でお金を下ろしながら生活を続けていた。
そんな折、オメガから連絡が入った。
「一度会わないか」
オメガはザイムを高級レストランに呼び出した。ザイムは払うあてがなかったが、オメガは事前に支払いを済ませていた。
「ザイム君、君には特別な才能がある。君こそ、この社会に真実を伝えるために選ばれた存在だ。私と一緒に仕事をしてみないか」
ザイムの心に高揚感が走った。自分は正しい、選ばれた人間だという承認欲求が満たされる瞬間だった。
オメガが持ちかけた仕事とは、真実や成功哲学を伝える教材をSNS経由で販売するというものだった。購入した教材を販売すれば成果報酬が得られるシステムであり、教材購入者が真実に目覚め、同じように販売者となって教材を販売すればザイム自身にもさらに収益が入る仕組みになっていた。
ザイムにとってはこれ以上ない申し出だった。彼は失業していたし、仕事内容は倉庫での仕分け作業ではなく世の中に真実を伝える仕事で誇らしかったし、何より尊敬するオメガの下で働けるからだ。しかもオメガは固定給の支払いも申し出てくれた。贅沢は出来ないが家賃と食費とローンの支払いが出来るぐらいの金額だ。
「やります。真実を広めてお金が入るなら、これ以上のことはありません」
ザイムは即答した。