書店の経営課題をまとめた資料が出ています
書店・本屋さんは必見!
経済産業省が書店の経営課題と支援策をまとめた資料が出ています(2024/10/4)。今回の記事は当該資料の解説です。
書店の支援策はあまり知られていない
書店の支援策は実は割と多く、他の業種でも使える補助金や相談窓口が用意されています。しかしながら、書店経営者の認知度が低く、あまり活用できていないという実情があるようです。持続化補助金や事業再構築補助金といった投資関係の補助金を利用することが出来ます。書店は普段から中小企業支援策に強い中小企業診断士と繋がっておくことで支援策を知ることが可能です。
29個の経営課題
資料には書店の経営課題として29個、小売業全体の課題として5個、合わせて34個の経営課題が挙げられています。全てを解説すると大変な量になりますので、これらをカテゴリ分けすると、11種類に分類できます。
1.スマホとの競合・本離れ
2.出店保証金負担
3.キャッシュレス決済負担
4.図書館との競合
5.公的イベントの不足
6.Amazonとの競合
7.再販制度と配本制度
8.雑誌依存
9.新規事業や差別化に後ろ向き
10.DXの遅れ
11.万引き
一見バラバラのように見えますが、1~6は自社での対応が難しいもの、7~11は自社での対応の余地があるものとなるよう分類しています。1~6については政治に改善を求めていく必要があるでしょう。しかし、7~11に関しては自社の創意工夫と政府の支援策をミックスさせ、自社で乗り越えていく必要があると思います。
アイデアの種は「コミケ」にあり
書店の経営改善のアイデアはコミケにあります。書店とコミケは書籍を販売しているという点では同じものですが、書店は衰退産業と言われている一方、コミケは成長産業です。この違いを知り、書店経営に生かすことが望まれます。以下は書店とコミケの経営の違いについてです。
1. コミュニティの形成
書店は基本的に商品を並べ、顧客がそれを選んで購入するという受動的なビジネスモデルが一般的です。顧客同士の交流が生まれることは少なく、リピーターを生むためのコミュニティ形成は十分に行われていない場合が多いですが、コミケはクリエイターとファンが直接交流できる場です。ファン同士も自然に集まることで強力なコミュニティが形成されます。
特に、参加者はただの消費者ではなく、イベント自体を支える一員としての意識を持っていることが特徴です。書店も「参加型」イベントを取り入れることで、店舗を拠点としたコミュニティ形成を促進することが可能です。例えば定期的な読書会やサイン会、地元作家との交流イベントを開催し、顧客がただの「購買者」ではなく、書店の一部と感じられる場を作ることができます。
2. 限定性と希少性
書店の商品は多くの場合、全国で同じタイトルが取り扱われているため、商品の希少性が感じにくいという点があります。特にオンライン書店で容易に入手できる商品では、わざわざ実店舗に足を運ぶ理由が少なくなります。一方コミケでは、限定版の同人誌やグッズが販売されることが多く、参加者はそれを手に入れるために時間やお金を惜しみません。
希少性と限定性が強い引力となり、多くの人を引きつけます。書店でも地域限定商品や、店頭でしか手に入らない特別版などのアイテムを取り扱うことで、顧客に「ここでしか買えない」体験を提供できます。また、作家とのコラボイベントなどでサイン入りの本やグッズを限定販売することも魅力を高める手法です。
3.財務体質
また、コミケではその場で本を売り切るため在庫が非常に少なくなり、資本回転率が非常に高くなっています。再販制度も適用されないため、粗利率も自由に設定できます。その代わり、本は全て買い切り(印刷代は自分持ち)であることが多いです。
4. 顧客体験の向上
多くの書店では、顧客体験が商品選びに限定されていることが多く、物理的な書籍購入以外の特別な体験は提供されていない場合が多いです。コミケでは、買い物以外にも多くの体験が用意されており、イベントそのものが顧客の「体験」として記憶に残ります。
並んで待つ時間すら一種の体験として捉えられ、イベント終了後も長く語り継がれることがあります。書店でも、単なる「販売場所」ではなく「体験の場」としての役割を果たすことが重要です。例えば、店内で本に関する展示や、作家の来店イベント、テーマごとの特設コーナーを設けるなど、訪れるたびに新しい発見や体験があるような工夫をすることで、顧客の心に残る店舗づくりが可能です。
5. 来店動機の明確化
書店の顧客は、基本的に本を購入する目的で来店しますが、他の選択肢(オンライン書店や図書館)もあるため、特別な理由がなければ来店頻度が減少することがあります。コミケでは、特定の作家やジャンルに特化した同人誌が購入できるという明確な目的があり、来場者はそれを目指して訪れます。
また、イベントそのものが一大行事としての魅力を持っており、参加者が積極的に予定を組んで来場します。書店でも、特定のテーマや作家に焦点を当てたフェアやイベントを定期的に開催し、来店する明確な理由を提供することが重要です。さらに、店舗限定のプロモーションやポイントカード制度などを導入することで、顧客の来店を促進することができます。
まとめ
書店経営を改善するためには、コミケのように顧客参加型のイベントや、限定商品を通じてコミュニティを形成し、希少性と体験を提供することが鍵となります。書店は単なる「本を買う場所」ではなく、顧客とのつながりを深め、訪れるたびに新しい発見がある「体験の場」として進化していくことが求められています。コミケのエッセンスを取り入れることで、書店業界は再び多くの人々を引きつけることができるでしょう。