人手不足時代に、企業が見直すべき「次の経営」
最近、「タイパ」という言葉を耳にする機会がかなり増えました。
タイムパフォーマンス、つまり「なるべく短い時間で、効率よく満足を得たい」という考え方です。
たとえば、食事を素早く済ませたい。
移動時間を短くしたい。
面倒な手間を減らしたい。
こうしたニーズは、いまや多くの業界で当たり前になっています。
一方で、その逆のように見えるニーズもあります。
あえて広い家で静かに暮らしたい。
ゆったりとした環境で、落ち着いた時間を味わいたい。
これは一見タイパとは反対ですが、実は同じ根っこを持っています。
それは、時間そのものの価値が上がっているということです。
私はこれからの時代、企業経営はこの「時間の価値」を中心に考え直す必要があると考えています。
その考え方を、私は時間価値経営と呼んでいます。
なぜ今、「時間価値」が重要なのか
背景にあるのは、やはり人手不足です。
人が減るということは、一人ひとりの時間がこれまで以上に貴重になるということです。
働く人の時間も、顧客の時間も、企業にとって無視できない価値を持つようになりました。
実際、SNSやゲームの世界では、すでに「隙間時間の奪い合い」が起きています。
アテンション・エコノミーという言葉が広まったのも、人の時間に価値が生まれたからです。
昔は違いました。
人は生きていくために時間を使うのが当たり前で、時間そのものをぜいたく品のように扱う時代ではありませんでした。
しかし、機械化やIT化によって生活に必要な手間が減ったあとも、人間の欲望はなくならず、別の形で時間はまた埋まっていきました。そこに少子高齢化と人手不足が重なり、いま「時間」は企業にとっても社会にとっても非常に重要な資源になっています。
昭和は生産性、平成は理念、令和は時間
私は、経営の歴史を大きく三つの流れで見ることができると思っています。
昭和は、トヨタ生産方式に代表されるように、いかに効率よく作るかが重視された時代でした。
安い資源と安い労働力を前提に、生産性を高めることが競争力だった時代です。
平成になると、状況は変わりました。
人件費は上がり、資源価格も上がり、製造業だけでは差別化しにくくなりました。
その中で重視されたのが、理念で人を束ねる経営でした。
会社の価値観を明確にし、その価値観に共感する人材を集めて、組織としての一体感を高める。これは平成の一つの勝ち筋だったと思います。
ただ、この理念経営は、人が辞めにくい時代だからこそ成り立っていた面もありました。
転職が難しく、逃げ場が少ない時代には強く機能した一方で、行き過ぎるとパワハラや過剰な同調圧力につながる危険もありました。音声でも、理念経営の副作用としていくつかの事例が語られています。
そして令和です。
今は人手不足で、働く人は以前よりも会社を選びやすくなっています。
この時代に必要なのは、理念で縛ることではなく、人の時間を大切にする経営です。
時間価値経営とは何か
時間価値経営とは、ひとことで言えば、
顧客の時間と、従業員の時間の両方を大切にする経営です。
私は、この考え方には大きく二つの柱があると思っています。
一つは、新規事業開発です。
顧客のニーズを価格や品質だけで見るのではなく、「その商品やサービスが顧客の時間にどう影響するか」という観点から見直していく。
すると、新しいビジネスの可能性が見えてきます。
もう一つは、働き方改革・労働環境改善です。
働く人の時間感覚も変わっています。
長時間働ける人だけを前提にした職場設計は、これからますます機能しにくくなるでしょう。
子育て、介護、病気、学び直し、副業や地域活動など、それぞれ事情を持ちながら働く人が増えているからです。
つまり時間価値経営とは、
「顧客に対しては時間価値に合った商品をつくり、
働く人に対しては時間価値に合った職場をつくる」
という経営です。
新規事業開発は「時間」で考えると見え方が変わる
では、顧客の時間価値をどう読み取ればよいのでしょうか。
ここで有効なのが、ブルー・オーシャン戦略の考え方です。
商品やサービスを、単に良くするのではなく、何を減らし、何を増やし、何を取り除き、何を付け加えるかを考えていく方法です。音声では、この文脈で「顧客体験の6段階」などのフレームワークと組み合わせて、時間という視点を加える重要性が語られています。
たとえば、顧客はその商品を買うとき、使うとき、管理するときに、
どれだけ時間がかかるのか。
その時間は苦痛なのか、快適なのか。
短くしたい時間なのか、むしろ味わいたい時間なのか。
そこに着目すると、従来とは違う商品設計ができるようになります。
時間価値経営は、単なる効率化ではありません。
短縮すべき時間と、豊かにすべき時間を見極めることです。
そこにこそ、新しい市場機会があります。
人手不足対策の本質は、採用ではなく職場環境改善にある
もう一つ、私が強く伝えたいのは、
人手不足対策の本質は採用ではなく、職場環境改善にある
ということです。
どれだけ募集をかけても、今いる人が「ここでは働き続けたくない」と感じている職場では、人は定着しません。
逆に、働いている人が「ここは働きやすい」「ここにいると安心できる」と思える職場なら、人は簡単には離れません。
そこで重要になるのが、職場にある「苦痛」を分析することです。
私はこれを、6つの苦痛という形で整理しています。
それは、
感情労働、注意労働、知識労働、技能労働、肉体労働、環境労働
の六つです。
たとえば、
人間関係で常に気を使わされていないか。
ミスできない緊張をずっと強いられていないか。
覚えることが多すぎないか。
習得に何年もかかる前提になっていないか。
身体に負担がかかりすぎていないか。
暑さ、寒さ、におい、粉じんなど、いるだけでつらい環境ではないか。
こうした苦痛を可視化し、減らしていくことが、結果として定着率を高め、人手不足に強い会社をつくることにつながります。
これからの経営は、「人を大事にする」を具体化しなければならない
「人を大事にする会社」と言うのは簡単です。
しかし、これからはそれをもっと具体的に示さなければなりません。
その具体化の一つが、時間価値です。
顧客の時間をどう扱っているか。
従業員の時間をどう扱っているか。
無駄に奪っていないか。
あるいは、より豊かなものに変えられているか。
この問いにきちんと向き合う会社が、これから選ばれていくのだと思います。
時間価値経営は、単なる流行語ではありません。
人手不足時代において、企業が生き残るための現実的な経営課題です。
そして同時に、新規事業開発にも、働き方改革にもつながる、次の時代の経営の土台になる考え方でもあります。


コメント