実録!企業倒産の現場から 第1話

企業再生支援

初めて目の当たりにした企業倒産

日本政策金融公庫を退職してから、10年が経過しました。

金融機関に勤めていた時代に見聞きしたことには当然、守秘義務があります。しかし、退職から一定の年月が経過したことで、いくつかの案件については、個別企業や関係者が特定されない形であれば、語ることができるようになりました。

もちろん、今でも話せないことはあります。企業名、経営者名、取引内容、具体的な数字、地域や業種の一部など、そのまま書けば関係者が分かってしまう情報は伏せなければなりません。

そのため、この「実録!企業倒産の現場から」では、私が実際に経験した出来事をもとにしながらも、必要に応じて仮名化し、一部に創作を混ぜています。実話が6、作り話が4。完全なノンフィクションではありませんが、企業が倒れていく現場で何が起きるのか、その空気や教訓はできる限り正直に書いていきたいと思います。

私が初めて企業倒産の現場に立ち会ったのは、入社して2年目の終わり頃でした。

その会社は、東大阪市にある繊維関連の会社です。ここでは仮に「T繊維株式会社」としておきます。

私が前任者からその会社を引き継いだ時点で、すでに経営状態はかなり厳しいものでした。売上は落ち、資金繰りは苦しく、取引先からの信用も揺らいでいました。若手職員だった私にも、「これは普通の経営不振ではない」と感じられるほど、会社全体に重い空気が漂っていました。

T繊維は、もともとは日本の創業家が経営していた会社でした。しかし業績悪化が続き、先代社長は会社再建のため、海外の企業グループに支援を求めました。その結果、形式上は海外資本が入った会社となり、先代社長の息子に社長が変わり、支援元企業の関係者も社内に入り、再建を進めようとしていました。

ところが、ここで大きな問題が起こります。

先代社長は、自ら外部に支援を求めたにもかかわらず、実際に経営へ介入されることには強い抵抗感を持っていました。一方で、現社長は先代の息子であり、会社を何とか立て直したいという思いを持っていました。そこに外部資本側の意向も加わります。

つまり、会社の中には、先代社長、現社長、外部資本側という複数の意思決定者が存在していました。そして、その人たちが同じ方向を向いていませんでした。

経営危機にある会社にとって、時間は何よりも重要です。資金繰りが厳しい時、売上が落ちている時、従業員や取引先が不安を感じている時、本来であれば、経営陣が一枚岩となって、何を守り、何を諦め、どの順番で手を打つのかを決めなければなりません。

しかし、T繊維では、それができませんでした。

支援を受けるのか、受けないのか。外部資本の意見を受け入れるのか、拒むのか。現社長が主導権を持つのか、先代社長がなお影響力を持ち続けるのか。

会社の再建策そのものよりも、誰が経営の主導権を握るのかという問題が前面に出てしまっていたように見えました。いわゆる「お家騒動」です。

もちろん、金融機関の担当者として、社内の事情をすべて把握できるわけではありません。外から見えているものは、あくまで一部です。それでも、会社が危機的状況にあるにもかかわらず、経営の方向性が定まらないことだけは、はっきりと伝わってきました。

結局、T繊維は倒産しました。リスケを繰り返していた企業でしたがリスケの意思決定が出来ず全ての借入債務の期限が到来したのです。そして数日後に破産手続開始の申立を行いました。

入社2年目だった私は、何も分からないまま、とにかく目の前の処理を進めるしかありませんでした。

会社が倒産したら、金融機関として何をするのか。債権額はいくらか。担保はどうなっているのか。保証人は誰か。回収可能性はどの程度あるのか。社内への報告はどうするのか。

そうした債権管理の基本に従い、一つひとつ書類を確認し、手続きを進めていきました。

正直に言えば、私には会社を救う力などありませんでした。経営者に有効な助言をすることもできませんでした。会社の倒産を止めることもできず、ただただ倒産後の事務処理を進めるだけでした。

今振り返れば、もっと早い段階で経営陣の意思統一ができていれば、違う展開もあったのかもしれません。外部資本を入れるのであれば、どこまで経営に関与させるのかを明確にしておく必要がありました。創業家が経営権を守りたいのであれば、その前提で別の再建策を探る必要がありました。

しかし、当時の私には、そこまで踏み込んで考える経験も、助言する力量もありませんでした。

この経験から学んだことがあります。

企業再生において、資金はもちろん重要です。しかし、資金だけでは会社は再生しません。経営者が現実を直視し、誰の責任で、どの方向に進むのかを決めなければ、再建は前に進まないのです。

外部から支援者を呼び込んでも、その支援者の介入を拒むのであれば、社内はかえって混乱します。再建のために必要なのは、単なる資金ではありません。現実を認め、決断し、責任を引き受ける覚悟です。

T繊維の倒産は、私にとって最初の企業倒産の現場でした。

私は何もできませんでした。

会社を救うこともできず、経営者の背中を押すこともできず、若手職員として、倒産後の処理を淡々と進めるだけでした。

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