実録!企業倒産の現場から 第18話

企業再生支援

支援終了!破産を勧めた会社

私が公庫を退職してから10年が経過し、守秘義務が解除されました。そのため、当時担当した企業についても、いくつかはお話しできるようになりました。とはいえ、そのまま書けば関係者が分かってしまう案件もありますので、このシリーズでは話せない部分には嘘を混ぜています。実話が六、作り話が四。そういう「実録もの」として読んでいただければと思います。 今回お話しするのは、私が自ら破産を勧めた会社の話です。企業倒産の現場では、会社が破産してから後処理をすることが多いのですが、今回は違います。営業を続けている会社の社長に対して、私の方から「もう破産してください」と言ったのです。舞台は岐阜県の美濃地方。会社名は「金華砕石」としておきましょう。もちろん仮名です。

砂利を掘る会社

金華砕石は、その名前のとおり採石業を営む会社でした。岐阜県の美濃地方には、砂利がよく採れる地域があります。河川によって運ばれた砂利などが地中に堆積している場所があり、そうした土地を掘って砂利を採取するわけです。 この会社は、畑や原野などを買っては砂利を掘り、採取した砂利を建設資材として販売する、という商売をしていました。採石業というのは少し特殊な業種です。普通の製造業なら、工場で原材料を加工して製品を作ります。しかし、この会社は土地そのものが原材料のようなものです。砂利が採れる土地を探して購入し、そこから砂利を掘り出す。掘り終われば別の土地に移る。そういう商売でした。 金華砕石の売上高は年間10億円を少し超える程度ありました。中小企業としては、それなりの規模です。ところが、経常損益は毎年1億円程度の赤字。それも、何年も続いていました。売上高10億円で1億円の赤字ですから、売上高の約1割が赤字ということになります。これは相当に厳しい数字です。 もちろん、企業というのは一時的に赤字になることもあります。例えば、大きな設備投資をしたとか、景気が悪くなったとか、そういう事情で一時的に赤字になることは珍しくありません。しかし、この会社は違いました。毎年赤字。それも大赤字。そして、改善する様子が全くない。私は、この会社を担当することになって、まずそこが気になりました。

何年も続いたリスケ

この会社は、私が担当するずっと前から金融機関への返済をリスケしていました。 リスケというのは、リスケジュールの略です。簡単に言えば、銀行から借りたお金を約束どおりに返せなくなったので、返済を待ってもらうことです。通常、銀行からお金を借りると、毎月いくらずつ返済するという約束があります。しかし、業績が悪くなって返済が難しくなると、銀行にお願いして返済額を減らしてもらったり、元金の返済を一時的に止めてもらったりします。これがリスケです。 企業再生の世界では、別に珍しいことではありません。銀行が返済を待っている間に経営改善を進め、黒字化して、再び返済を始める。そういう会社もあります。ただし、これはあくまで時間稼ぎです。借入金の返済を止めてもらったからといって、会社が儲かるようになるわけではありません。その間に経営を立て直せなければ、結局は同じことです。 金華砕石は、そのリスケを何年も続けていました。何年も返済を待ってもらっているのに、赤字は減らない。それどころか、毎年1億円程度の赤字が続いている。これでは、いつまでたっても正常な返済に戻せません。 当然、金融機関からの追加融資も期待できません。銀行だって、返済を待っている会社に、さらにお金を貸すのは難しいわけです。つまり、金華砕石は、金融機関からの資金支援をほとんど受けられない状態で、毎年大赤字を出しながら営業を続けていたのです。 そこで、私は疑問に思いました。「この会社、なんで潰れないんだろう?」普通に考えると、おかしな話です。会社が赤字になるということは、少なくとも利益の面では事業が成り立っていないということです。もちろん、赤字だからすぐに現金がなくなるわけではありません。減価償却費などもありますし、資産を売ったり、借入金を増やしたりして資金を調達することもできます。しかし、この会社は何年も赤字を続けているわけです。しかも、銀行から新たにお金を借りることもできません。それなのに、なぜ何年も営業を続けることができているのか。何か理由があるはずです。 そこで、過去の決算書を調べてみることにしました。公庫には過去10年間の決算書を並べて、財務状況の推移を見ることができる分析ツールがありました。今ならもっと便利なものがあるのでしょうが、当時はこれがなかなか役に立ちました。 決算書というのは、1年分だけ見ていても分からないことがあります。例えば、借入金が5億円あるとします。それだけでは、多いのか少ないのか、なかなか判断できません。しかし、10年前は2億円、5年前は3億円、今年は5億円と並べてみると、借入金が増え続けていることが分かります。逆に、10年前は10億円あった借入金が5億円まで減っているなら、かなり印象が違います。企業の財務を見るときには、こうした時系列の分析が非常に重要なのです。 そこで、金華砕石の過去10年間の決算を並べてみました。売上高はどうか。利益はどうか。借入金はどうか。現金預金はどうか。そうして見ていくうちに、ある項目が目に留まりました。買掛金と未払金です。これが、毎年どんどん増えていたのです。

銀行の代わりにお金を貸していたのは誰か

買掛金というのは、簡単に言えば、仕入れたものの代金をまだ支払っていないものです。未払金も、発生した費用などのうち、まだ支払いが済んでいないものです。例えば、100万円の商品を仕入れて、代金は翌月末に支払うという取引をしたとします。その100万円は、支払うまで買掛金として決算書に載ります。これは普通の商取引です。別に悪いことでも何でもありません。 ところが、金華砕石の場合、これらが毎年増え続けていました。つまり、支払うべきお金が、どんどん積み上がっているのです。これで謎が解けました。この会社は、支払いを先送りすることで資金繰りを回していたのです。銀行が追加融資をしてくれない。会社は毎年赤字を出している。普通なら資金が尽きてしまいます。しかし、取引先などへの支払いを待ってもらえば、その分だけ現金が会社に残ります。 毎年、買掛金や未払金が増えているということは、会社が支払うべきお金を会社の外に出さず、営業を続けるために使っているということです。言い換えれば、銀行が貸してくれないお金を、取引先などの債権者が事実上貸しているような状態だったわけです。 しかも、問題はこれが何年も続いていたことです。一時的に支払いが遅れているという話ではありません。会社の赤字を埋めるために、未払いが積み上がっていく構造になっていたのです。これでは、会社が存続すればするほど、周囲に迷惑をかけることになります。 私は、この数字を見て、これはもう駄目だと思いました。

社長、もう破産しなさい

私は社長に会いに行きました。社長は、すでにかなり高齢の方でした。長年、この採石会社を経営してきた人です。私は、過去の決算書を分析した結果を説明しました。 「社長、この会社、もう何年も赤字が続いていますよね。銀行から新しいお金を借りることもできない。なのに、なぜ会社が続いているのか、不思議だったんです」 そして、買掛金と未払金が毎年増え続けていることを指摘しました。 「結局、取引先なんかに支払いを待ってもらうことで、会社を続けているんですよね」 会社は赤字を出し続け、金融機関への返済も止まっている。そのうえ、取引先などへの支払いまで先送りしている。これは、もう普通の経営状態ではありません。 「社長、これ以上会社を続けても、周りの人に迷惑をかけるだけです。今のままでは、赤字が減る見込みもない。銀行から支援を受けられる見込みもない。だったら、もう会社を畳んだ方がいいです」 そして、はっきりと言いました。 「社長、破産を勧めます。これ以上の支援は出来ません」 金融機関の人間が融資先の社長に破産を勧めるというのは、なかなか強烈な話かもしれません。しかし、私は本当にそう思っていました。この会社をあと1年続けたとして、何が良くなるのか。赤字が1億円増え、買掛金や未払金がさらに積み上がるだけではないのか。それなら、今のうちに会社を畳んだ方が、社会全体の損失は小さくて済むはずです。 社長は、ほとんど抵抗しませんでした。 私としては、もう少し反論があるかと思っていたのです。「まだ頑張りたい」とか「何とかする方法はないのか」とか、そういう話になるのかと思っていました。しかし、社長は特に抵抗することもなく、私の話を受け入れました。 もしかすると、社長自身も分かっていたのかもしれません。もうこの会社は立ち直れない。続けても赤字が増えるだけだ。それでも、長年経営してきた会社を自分から畳むという決断ができない。そんなところだったのかもしれません。 誰かに引き金を引いてほしかったのでしょうか。もちろん、社長の本心までは分かりません。ただ、私はそういう印象を受けました。そして、1ヶ月ほどで金華砕石は破産しました。

会社を生かしておくことが、本当に正しいのか

企業再生というと、どうしても会社を救うことが目的になりがちです。銀行がリスケに応じ、経営改善計画を作り、専門家が支援して、何とか会社を存続させようとする。それ自体は、もちろん悪いことではありません。私も、企業再生の仕事をしてきましたから、再生できる会社は再生させるべきだと思っています。 ただし、世の中には、もう再生の見込みがない会社もあります。 金華砕石は、何年もリスケを繰り返し、その間ずっと大きな赤字を出し続けていました。それでも銀行からお金を借りることはできない。では、どうやって会社を続けていたのかといえば、買掛金や未払金を積み上げていたわけです。 つまり、取引先などの犠牲の上に会社が存続していたのです。こんな会社を、いつまでも生かしておいてよいのでしょうか。 会社が存続すれば、雇用が守られるという意見もあるでしょう。確かに、従業員にとって勤め先が倒産するのは大変なことです。しかし、赤字が止まらず、支払いを先送りすることでしか続けられない会社では、その雇用をいつまで守れるのでしょうか。そして、その会社に商品やサービスを提供している取引先はどうなるのでしょうか。未払いが増え続ければ、今度は取引先の経営まで危うくするかもしれません。 会社を守ることと、社会全体の利益を守ることは、必ずしも同じではありません。 私は、再生の見込みがない会社を無理に存続させることが、正しいとは思いません。もちろん、赤字になったらすぐ破産すべきだという話ではありません。赤字でも、経営改善によって立ち直る見込みがあるのなら、支援すればよいのです。 しかし、何年も支援を続けてきたのに、業績が全く改善しない。金融機関の支援も限界に達し、取引先などへの支払いを先送りしなければ存続できない。そこまで来たら、どこかで終わらせる決断が必要なのではないでしょうか。 私は金華砕石の社長に、破産を勧めました。そして、今振り返っても、あの判断が間違っていたとは思いません。 救うべき会社は救う。しかし、終わらせるべき会社は、終わらせる。企業を再生させることだけが、企業再生の仕事ではありません。会社を畳むことも、時には必要な仕事なのです。 これは、私が企業倒産の現場で学んだことであり、今でも変わらない信念です。