AI小説「ケイのオレンジ・ライフ」第2章

実験室

ケイの虹色の検索

翌日は偶然、予約が入っていなかった。

朝食を片づけたあと、ケイは久しぶりに静かな時間を手にした。窓からは柔らかい秋の光が差し込み、庭の木々の葉がかすかに揺れている。リビングのソファに腰を下ろしたケイは、昨日ミキから聞いた政党のことを思い出していた。

何気ない会話のはずだった。しかし「オレンジの旗を掲げる政党」という言葉が、なぜか頭から離れなかった。半信半疑のまま、ケイはパソコンを開き、検索窓に指を走らせた。
画面には、見慣れないブログや動画のサムネイルが次々と現れた。背景は明るく、タイトルはサイケデリックな虹色に装飾され、視線を引きつける。再生ボタンを押せば、さまざまな人々が語っていた。若い母親、地方で暮らす高齢の男性、学生風の若者——どの声も同じ調子で繰り返す。

「自ら学び、自ら考え、自ら行う」

その言葉は、一見すると当たり前のようでいて、ケイの胸には新鮮に響いた。映像の中では、地域の課題を話し合い、自分たちで解決方法を探す様子が紹介されていた。「自己否定も、他者否定もせず、それぞれの意見を尊重する」「立候補者も地域の中から選ぶ」といった方針が、強調されるように語られていた。

ケイは画面を見つめながら、胸の奥で静かなざわめきを感じた。

——これなら、私も受け入れられるのではないか。

家庭でも学校でも、気づけばいつも自分を抑えてきた。誰かに合わせることが当たり前になり、意見を言うことすら遠ざけていた自分。けれど、この人たちは違うと言っている。
気づけばケイは、スマートフォンを手に取りミキへとメッセージを送っていた。

「この集会、私も行ってみたい」

数分後、「一緒に行こう」と返事が届いた。

ケイの煉瓦色の出発

数日後

会場は市の公民館の一室だった。煉瓦色の外壁の中に折りたたみ式の机と椅子が並び、簡素ではあるが清潔な雰囲気が漂っていた。入口の横にはオレンジ色の布が掲げられ、その下には「自ら学び、自ら考え、自ら行う」と書かれた看板が置かれている。参加者は年齢も服装もばらばらで、学生風の若者もいれば、子連れの母親、退職後と思われる夫婦もいた。

受付を済ませて案内されたテーブルには、すでに三人の女性が座っており、それぞれミホ、マイ、リエと名乗った。いずれもケイと同年代か、やや若いくらいだろう。自己紹介のあと、司会者が声を張り上げる。

「今日は小さなグループで意見を出し合い、地域の課題を話し合ってください」

ミホが最初に口を開いた。

「私は……幼稚園で子どもたちを見ているんですけど、最近ちょっと心配なんです。ワクチンとか、ほんとに大丈夫なのかなって。ネットで色々見ると不安になることが多くて……。子どもたちが元気に育ってほしいだけなんですけど」

彼女の声はやわらかいが、確信には乏しく、周囲に答えを求めるようでもあった。

すかさずマイが言葉を継いだ。

「私は違います。もともと看護師をしていましたけど、あの現場を見てきたからこそ言えます。今の医療は無駄の塊です。薬も検査も、病院も政策も、全部税金を食いつぶすだけ。人間の体は心の在り方と波動で守れるんです。だからこそ、もっと減税して、みんなが自由に生きられる社会にすべきだと思います」

彼女の言葉は鋭く、机の上の空気を一瞬で引き締めた。
少し間を置いて、リエが口を開いた。

「私……怖いんです。最近、外国の人が増えてきてますよね。治安が悪くなるんじゃないか、文化が壊れるんじゃないかって。仕事もなくて生活も不安なのに、そんな中で知らない人たちが増えていくのは……正直、つらいんです」

彼女は伏し目がちに続けた。

「観光で来る裕福な外国人ならいいんです。でも、そうじゃない人たちが近くに住むのは……」

言葉が途切れると、テーブルには重たい沈黙が落ちた。三人三様の不安と不満が、それぞれ違う色を帯びて漂っている。

ケイは胸の奥で、何かを押し出すように口を開いた。
「私は……ずっと考えてきました。子どもが小さいころ、病気になるたびに薬を飲ませるのが本当に正しいのか迷っていました。そんなときにホメオパシーに出会って、初めて安心できたんです。自然の力で体が回復していくのを目の当たりにして、これは本当に素晴らしいものだと感じました」

声が次第に熱を帯びていく。
「でも、政府はホメオパシーを認めようとしません。薬やワクチンばかり推し進めて、本当に人を元気にする方法には目を向けない。製薬会社や医療制度ばかりを守って、私たちの選択肢を狭めている。どうして自分の体のことを、自分で選んではいけないんでしょうか」

言葉を重ねながら、ケイはいつになく強い口調になっていた。
「私は、もっと自由に健康を守れる社会がいい。自然と調和して、自分に合った方法を選べる社会でなければ、これからの時代を生き抜けないと思うんです」

三人は黙って頷き、視線をケイに向けていた。そのとき、会場を回っていた党首がふと足を止め、ケイの言葉に耳を傾けた。50歳ぐらいに見える茶色のスーツを着た男性で、落ち着いたまなざしで彼女を見つめ、短く、しかしはっきりと口にした。

「よし、それもやってみよう」

その一言は、鋭さではなく温かさを帯びて響いた。ケイの胸に、かすかな光が差し込むような感覚が広がった。自分の思いが受け止められただけでなく、行動に移されるかもしれない。その実感が、これまでにない喜びとなって心を満たしていった。

集会が終わるころ、ケイはもう心に決めていた。

——次も、必ず参加しよう。

集会が終わり、ケイは出口でミキと合流した。外はすっかり夕暮れで、街灯がオレンジ色に点り始めていた。二人は並んで歩きながら、互いに感想を言い合った。

「どうだった?」とケイが尋ねると、ミキは笑顔で頷いた。

「すごく面白かったよ。私のグループはね、アユさんっていうヨガの先生がいて。古代仏教とかインド哲学とか、量子力学とかを混ぜた話をしてくれて。宇宙人と交信できるって本気で信じててね、不思議なんだけど、すごく明るくて健康的で。聞いてると元気になる感じだったの」

ミキは楽しそうに続けた。

「それから、クミさんっていう大企業に勤めてる人もいたの。とにかく自然食にこだわってて、農薬とか化学肥料は全部毒だって。スーパーで買い物するのにも成分表を細かくチェックして、納得できないものは絶対に買わないんだって。ちょっと神経質かなって思ったけど、徹底してるのはすごいなって」

「へえ……」とケイは相槌を打った。

「あとね、隆夫さんっていう農家の人。国産以外の食べ物はぜんぶ毒だって言い切るの。特にアメリカのものは絶対に嫌だって。頭のいい人やエリートは信用できないっていうし、現場で働く人こそ偉いんだって。言葉はちょっと乱暴だったけど、自分の農業に誇りを持ってるのは伝わってきたな」

ケイは耳を傾けながら、ミキの言葉を噛みしめていた。

(それぞれに考え方がある……でも、こうして集まって話す場があることで、自分の思いも少しずつ形になるのかもしれない)

夕暮れの道を並んで歩きながら、ケイは次の集会が楽しみになっている自分に気づいた。

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