頂上決戦!銀行vs悪徳倒産コンサルタント
旅館シリーズ第3弾、今回ご紹介するのは、私が直接担当した案件ではありません。しかし、債権管理の現場では知らない人はいないほど有名だった事件です。会社名はそうですね、「上高地リゾート」としておきましょう。
借金逃れの「秘術」を売る男
今ではほとんど見かけなくなりましたが、当時は「詐害的会社分割」を専門に売り歩く倒産コンサルタントがいました。
「銀行には絶対に取られません。」
「会社だけ残して借金を切り離せます。」
そんな甘い言葉で、経営に行き詰まった企業へ近づくのです。
詐害的会社分割とは、当時の会社法を利用した借金逃れの裏技です。「会社分割」という会社を2つに分ける手続きというのがあるのですが、この手続きには実は、債権者の保護が必要ありません。つまり、たくさんの借金を抱えた会社を「財産だけの会社」と「借金だけの会社」に分割することが可能なんです。
ここでのポイントは、分割の時に親会社を借金だらけにし、財産は子会社に全部移すのです。そして親会社は子会社を誰かにすごく格安で売ってしまう。すると債権者である銀行は手が出せなくなってしまう。銀行が気付いた時には、融資先は資産のない抜け殻の会社。一方で新会社は何事もなかったかのように営業を続ける。その売却先とは、社長の配偶者だったり親戚だったり、名義貸しのコンサルだったりするわけです。
当時は制度や判例が十分に整備されておらず、この方法で実際に逃げ切る企業もありました。こうしたコンサルタントには多くの経営者が相談に訪れていたのです。まあもっとも、不動産担保があったり個人保証があったりすると話が変わるのですが、そういうリスクは彼らは説明しません。
誘いに乗った上高地リゾート
時は金融円滑化法時代、観光産業は壊滅状態で名のあるホテルが次々とリスケ・延滞・競売・破産となっていく中、上高地リゾートにその悪徳倒産コンサルタントが近づきました。
借金が無くなる
銀行との交渉は不要
会社分割さえしてしまえば勝てる
そういう甘い言葉に乗り、上高地リゾートは会社分割を実行。借金は今の会社に残し、ホテルの土地建物、在庫や備品、売掛金など価値あるものは全て子会社に移しました。コンサルタントは、自信満々だったそうです。
この時のメインバンクは明治時代に創業された歴史ある地方銀行、サブが日本政策投資銀行でした。地元で長年大人しくやってきた銀行とお役所様。ナメられていたんでしょうね。
せっかくですのでここで、日本政策投資銀行と日本政策金融公庫の違いについて少し説明しておきます。
日本政策投資銀行(DBJ Development Bank of Japan)は昔の名前を日本開発銀行と言い、国策での融資を大企業・中小企業問わず行う政府系金融機関です。国策で投資活動が行われる時にはだいたい関与しており、大規模な地域開発や大規模工場の建設、発電などの国家プロジェクトに顔を出していることが多いですね。
日本政策金融公庫(JFC Japan Finance Corporation)は「公庫」と呼ばれていた特殊法人をいくつか合併させたもので、中小企業や農業者向けの融資のほか、教育ローンや特殊な保険まで扱う政府系金融機関の寄り合い所帯です。
本当に話がずれますが、公庫は天下りの役員が多いんですよね。色んな省庁が独自に「公庫」を持っていたのを合併したので、それぞれの省庁から全部天下ってくる(笑)。一応株式会社なので株主総会もあるのですが、株主は国1人なので総会にも1人しか来ない。一方で役員はずらーっと並ぶという奇妙な光景があるそうです。
銀行の逆襲
話を戻しまして詐害的会社分割ですが、これまでならば銀行は泣き寝入りでした。しかしこの時期、「政府系金融機関に色んな金融実験やらせようぜ」的なムーブが一部あったんですね。日本政策投資銀行がメインの地銀を巻き込んで逆襲に出ます。
それが会社更生法の申立です。会社更生法というのは主に大企業向けの倒産手続きで、債権者が旧経営陣を追い出し、債権者主導で債権カットなどを行い企業を再生させる法的手続きです。JAL、NOVA、大阪WTCなどに適用された実績がありますね。
メインバンクと日本政策投資銀行は上高地リゾートに会社更生法の適用を申請し、会社に乗り込んできます。真っ先に行ったのは「会社分割の否認」でした。会社更生法には旧経営陣が行った行為を否認し、取り返すことを可能とする規定があります。これを用いて会社分割をそもそも無効にし、子会社からホテルを取り返したのです。
これは金融界では「理論上あり得る」をされていた解決策ですが、実際には誰もやったことのない策でした。その金融実験がついに行われたわけです。
しかもこれで終わりではありません。メインバンクと日本政策投資銀行は、取り返した旅館を立て直すのではなく、金融投資会社に売却してしまったのです。
旅館の経営者は借金から逃げるどころか無理やり引き戻され、旅館を取られ、裸で追い出されることになりました。もちろん、連帯保証債務もあれば経営者として会社に損害を与えた責任もこれから追及されることになります。最悪の結果に終わったと言えるでしょう。悪徳倒産コンサルタントはどこかへ逃げてしまいました。
詐害的会社分割の終わり、そして・・・
この事件と実はもう1件、これも今後書いていくつもりですが事件があり、この2件によって詐害的会社分割の時代は終わりました。正直カッコいいと思いましたね。困難であっても誰も切り拓かない道を切り拓き、未来を変える仕事だと思いました。こういう仕事をしてみたいものですね。
なお、この悪徳倒産コンサルタントはもはやどこにいるのか分からない・・・というわけではなくしばらく潜伏した後、最近は「非上場企業の総会屋」という仕事を始めています。まだまだ悪は終わらない。
私が日本政策金融公庫を退職して10年が経過し、守秘義務が解除されましたため、当時担当した企業についてお話しできるようになりました。とはいえ、そのまま書けば特定されてしまう案件もありますので、このシリーズでは話せない部分には嘘を混ぜています。実話が六割、作り話が四割。いわゆる「実録もの」として読んでいただければと思います。

